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Vol.02 「いったい自分は何者なの?」部族語と
アイデンティティー消滅の危機
現在ネイティブアメリカンの社会では部族語の消滅の危機が懸念されています。今回はかれらの日常における部族語の位置づけとその現状についてお話します。

アリゾナ州の居留地内にあるレストランで友人と食事をしていた時のことです。場所柄か、レストランで働く人もお客もほとんどがネイティブアメリカンという様子でした。
私達の隣のテーブルの家族連れが注文を取りに来た女性とナバホ語で話す様子を見るともなしに見ていたのですが、ふと興味を覚えて一緒にいたナバホ族出身の友人、ドリーンに「ねえ、家族と話す時ってナバホ語なの?」と聞いてみました。ドリーンは26歳の生粋の、いわゆる『フルブラッド』のナバホウーマンです。ネイティブアメリカンの社会において彼女のような若い世代にはめずらしく部族の言葉を完璧に話し、伝統や習慣、文化等にも精通しています。これはたぶんに部族の歴史やしきたりを重んじる『伝統派』の家庭で育ったということが大きく影響しているのでしょう。
彼女は少し考えて、「うーん、大抵はね。でも話す相手にもよるかな。
おばあちゃんはほとんど英語が話せないから当然ナバホ語オンリーになるでしょ。両親や兄貴達とは英語の時もあればナバホ語の時もある。英語で話しかけられたら英語で答えるし。その時の気分次第って感じ?一番下の弟は簡単な言葉くらいなら大丈夫だけど、ナバホ語はほとんどお手上げ状態だから当然英語で話すことになるわね。だから、おばあちゃんと弟の会話ってちょっとした見ものよ。お互い相手に自分の言いたい事を伝えるのに悪戦苦闘してるの。まあ結局は私達が間に入って通訳することになるんだけど。」と苦笑まじりに答えました。

現在ネイティブアメリカンの社会では、英語を理解しない祖父母世代と生まれた時から当然のように英語が周りに溢れている環境で育った若い孫世代(特に10代から20代)との間に横たわる『コミュニケーションギャップ』の問題を、文化や伝統の喪失の根源になるものとして大変深刻に捉えています。

『伝え手』である高齢者層の人口が年々減少していることや『継承者』である若い世代の部族文化離れ等を一民族としての『生き残り』をかけた問題とまで断言する人達も多数います。

今現在、北米大陸に存在する部族は約500。そして250の部族語が確認されていますが、人口の減少に伴う言語の消滅等が原因で、実際に日常的に使用されているのはその内の155のみと言われています。
また、属する部族言語の完璧な話し手の数は、ネイティブアメリカンの総人口約243万人(2000年調査時点)のうち3分の1であるということが判明しており、中でもナバホ、イロコイ、ピマ、アパッチ、スー族の言語継承者数はかなり高い率を占めています。

1992年10月26日、ブッシュ大統領はネイティブアメリカンの文化及び言語消滅を食い止める為、部族語教育に必要な設備や技能の習得、教材開発、教育者や通訳者の育成、幼児向け言語教育、部族の歴史の編纂等を含むプログラムを認可する法案に正式署名しました
。 現在も熱心な取り組みがなされていますが、前述のドリーンの家族のケースのように、国家を挙げての一大プロジェクトの効果はまだまだ個人レベルにまで浸透しているとは言えないようです。

『週に2回、ナバホ語を居留地の小学校で教えてほしい』と州政府からドリーンの父親に要請があったと聞いた時、「まったく白人のやることはよくわからないねえ。昔はナバホ語を話しちゃいけないとか言って、子供達を無理やり親元から引き離して遠くの寄宿学校にいれたり(1870年〜1950年代にかけて行われたいわゆる『白人化教育』のこと。英語以外は禁止され、規則を破れば体罰や家族との面会を何年も許されない等、大変厳しい教育が行われていた)してたのに。今度はその逆だなんてねえ。いつになったらあの人達はわたしらを放っておいてくれるようになるんだろう」とおばあさんが言っていたそうです。

言葉というものは、民族としてのアイデンティティーそのものだと思います。それを無理やりもぎ取られた歴史をもつ人々・・・多くのネイティブアメリカンの若者達が、自分は一体何者なのか、『アメリカ人』なのかそれとも『ネイティブアメリカン』なのかというジレンマを抱えているそうです。
それぞれ異なる背景をもった『〜系アメリカ人』が混在するアメリカではよくある種類のジレンマなのかもしれません。

しかし、言葉まで奪われたという過去を持つのはネイティブアメリカンの人々だけではないでしょうか。それだけにかれらの歴史の『影の部分』が一層濃いものに感じられてなりません。
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